ギターの塗装がよくわかる。ラッカー塗装の注意点
エレキギターやベースなどには通常、色彩豊かな塗装が施され、音だけでなく私たちを目でも楽しませてくれます。
しかし、その塗装の役割はビジュアルだけにとどまりません。
木工製品としての耐久性や生産性、そして音色やプレイヤビリティにも重要な役割を果たしているのです。
今回はそんな塗装に焦点をあて、その種類や特徴について解説したいと思います。
もくじ
塗装の違いで音が変わる!?
塗装にはさまざまな方法があり、それぞれ仕上がり、工程などに特徴があります。
塗装することでギター本体の木材の劣化などを防ぎ、耐久性を実現しているわけです。
また、塗装によってボディの厚みを100分の1ミリ単位でコントロールしていきます。
ギターの音色は塗装だけではなく、材質や、パーツなどさまざまな要素が複雑にからむため、良い音かどうか、また好みの音かどうかはあくまで総合的な判断になります。
エレキギターの塗装と種類と特徴
ラッカー塗装
ニトロセルロースラッカーという塗料を使い、塗装するタイプのことです。
綿などセルロースからなる繊維のニトロ化によって得られる樹脂であるニトロセルロースを含み、揮発性の高い溶媒を用いたラッカーは1920年代前期に開発され、30年にわたって自動車工業に広く用いられた。
綿の繊維、または木材繊維を原料として作られた天然繊維で、木材との相性もよい優れた塗料です。
見た目は、独自の透明感とツヤがあります。
ほかの塗料と比べ、塗り替えや部分的な補修がしやすく、軽い研磨をするだけで再塗装ができるほどの薄い塗装が特徴です。
その「木材が呼吸する」とも例えられるほど薄い塗膜は、木材の経年変化を促し、時間をかけてボディが乾燥していくことで、楽器の鳴りが変わっていくのです。
1954年製のFenderストラトキャスターや、1959年製のGibsonレスポールなど、「ビンテージ」と呼ばれるエレキギターはこの塗装が主流です。
歴史あるサウンドを追い求めて、今でもこの技術は使われていますが、ラッカー塗装の特性上、硬化するまでに時間がかかるため、一度に厚塗りができず、目的の厚みにするまでに時間がかかります。
何度も時間と手間をかけて塗装していくので、大量生産が極めて難しく、ほかの塗装に比べてその分コストかかります。
そのため今では高級ギターの特権として扱われることが多いです。
そのほかにも、塗膜が薄いラッカー塗装の最大の特徴としては、音の伝達(木の鳴り)がよくなることがあげられます。
ラッカー塗装の注意点
ラッカー塗装のエレキギターを所有する際、最も注意したいことがあります。
それは、スタンドなどのゴムと一定時間接触を続けると化学反応して、溶けたり変形や変色してしまうことです。
打痕なんかより断然やっちまった感がある超絶色移り、白ラッカーの宿命なんやって自分に言い聞かせてる pic.twitter.com/PBGidqBpzr
— ヤツハシ @5/22 ひめたま祭 (@kndshiom6211) August 23, 2015
https://twitter.com/nyagsic_works/status/979188574485532672
https://twitter.com/more_mizu/status/233222604918493184
参考:ギターが溶ける事件。
参考:ラッカーの悲劇
温度変化や湿度に弱いので、高温・多湿の場所は避けるとともに、スタンドのゴム部分は、布などでカバーする対策が必要になります。
スタンド用ギターブラジャー
ギタースタンドに装着することができます。
Freedom Custom Guitar|SP-P-12 f54 Shine
デリケートなラッカー塗装のためのクリーニング剤もあります。
ポリウレタン塗装
70年代から現代に至るまで、最もポピュラーな塗装です。
現在、一般的に販売されてる中堅クラスのギターのほとんどは、このタイプになります。
ウレタン結合の形成によって生成されるポリウレタンが塗膜となる塗料。
塗膜は光沢,肉持ち感にすぐれ,硬度,耐薬品性が良好で、たわみ性に富み、耐摩耗性が大きい。
木の保護を目的とした塗装技術のことで、ラッカーよりも耐久性に優れ、外部環境からの影響も受けにくくなります。
ラッカー塗装は厚みを出すために何回も重ねて塗装しなければならないのに対し、ポリウレタン塗装では、化学反応を使って硬化させるため、乾燥の手間・時間を必要とせず、一度で厚塗りを実現できます。
1970年代に入ってエレキギターの需要が増えたことで、従来のラッカー塗装よりも生産効率が高い、ポリウレタン塗装が主流となりました。
ポリエステル塗装
一度に厚塗りが可能で、大量生産向きの塗装です。
初心者用の安価なギター・ベースなどはこの塗装方法が使われています。
ポリエステル樹脂塗料の特徴としては、塗料全体が塗膜を形成するので、非常に厚い塗膜が一回塗りで得られ、塗膜が内部から硬化していくので上乾きの心配がなく、塗膜が厚いほど硬化が良いといううことがあげられます。
製造コストは安価になるですが、塗装の厚みを細かくコントロールすることが難しいので、ボディの鳴りなどの調整にはやや劣ります。
また塗膜が木材を覆い隠すので、安価な木材でも見た目のごまかしができます。
ギターボディ全体で塗料が約300gと、厚みの分やや重くなります。
一般的に”ポリ塗装=分厚くて安い”と言うイメージの物は”ポリウレタン”ではなく”ポリエステル”塗装なんですよ。
安価なギターでぶつけたりするとボロッと塗装が”欠ける”あれですね。
ところが同じポリでも”ウレタン”はかなりラッカー寄りで塗装も非常に薄い物がほとんどなんです。
塗装の厚みが違うのは塗料の”硬化スピード”の違いにより塗装方法が異なるからです。
オイルフィニッシュ
オイルフォニッシュは木材に直接オイルを塗り込んで、水分の侵入を防ぐ方法です。
木材の杢目(もくめ)がそのまま見えるぐらいの極薄の塗膜で、木の質感そのままのさらさらとした肌ざわりが特徴です。
デメリットとしては水分や湿度による木材への影響が大きいことです。
塗装によるボディ鳴りへの影響は少ないですが、しっかりした木材を使っているものを選び、保管方法にも十分に気を使うことが必要です。
ギターの塗装はどれぐらいの料金がかかる?
ギター全体の塗装を塗り直すこと = リフィニッシュといいます。
一般的なギター工房で、ラッカーやポリウレタン塗装の場合、ボディのみなら約50,000円ぐらい〜、ネックやヘッドなども含めると約80,000円〜90,000円が相場かと思います。
塗装を一度すべてはがしてから塗装するのですが、場合によっては厚みが変わり、他のパーツとの再調整などで手間や時間かかります。
場合によってはヘッド部のブランド・メーカーロゴも取り除かなければなりません。
ギターにペイントする際にオススメのペンは?
ギター本体へのペイントは塗膜にとって決してよくないのですが、やはり愛着のあるマイギターにオリジナルのペイントを施したい方も多いと思います。
そんな場合は「ボードスティックス」というペンがおすすめです。
もともとはサーフボードをペイントするためのペンで、発色の良さ、耐久性で定評があります。
水性のペンなら万が一の修正も可能ですが、汗などの水分でペイントが落ちてしまわないよう、アクリルスプレーで仕上げ処理をしましょう。
New board means new art with @BoardStixpic.twitter.com/TkNQjK5Uqp
— Gypsica (@jesswall1) February 12, 2018
最後に
エレキギター・ベース選びや、リフィニッシュしたいときなど、塗装が気になる方はぜひ参考にしてみてください。
塗装の状態にもわずかながらも個体差はありますので、フィーリングに合うかまずは試奏されることをおすすめします。
ライタープロフィール
スタジオラグ
中尾きんや
スタジオラグスタッフ
ウェブサイト:https://www.studiorag.com
Twitter:kin_kinya